和風とはなんぞや?洋風ってどいう意味?
近頃の庭木選び
植木センターでお客様のご相談に乗っていると、よく「洋風の木がほしい」と言われます。
また、作庭を頼まれて選んだ木を見せると、「これは洋風の木ですか?」なんて聞かれたりします。
以前の住宅と違い、今は建材の改良によりデザインのバリエーションも増え、低コストで質の良いものが供給できるようになり、家がモダンでおしゃれな明るい姿になりました。まさに欧米風です。
それに伴い、庭木も家のイメージに合う木が好まれるようになりました。
前時代使われてきた松や、ツゲの玉造りは敬遠され、株立ちを中心とした自然樹形の木やブッシュ系の草花、バラなどのヨーロッパを意識できる樹木が人気となっております。
また、ガレージなどの仕切りに使われる素材も、レンガや偽木、敷石もサンドストーンやインターロッキングが主流になり、その明るい雰囲気に合う、色物の砂利が好まれるようになりました。
その背景のもう一つの要因として、車社会に大きく傾き、一家に1台の車の数では足りず、2台3台と置き場を増やすことで庭の植木スペースが減り、大きな木やかさばる木が敬遠されだしたこともあるのではないでしょうか。
洋風のイメージ
では、皆さん使われる’洋風’ってどんなことなのでしょう?
辞書によれば、’様式が欧米であるもの’と出ていますし、対義語では必ず’和風’と書いてあります。
ということは、今まで和庭で使ってきた材料と違うものを使うことが洋風なのでしょうか?
お客様にイメージを聞いたとしても、明確に自分の洋風定義を説明できる方はおりません。
ですから相談される度に、「これって洋風ですか?」と聞かれるのでしょうけど。
きっと日本庭園とは違う見え方のする庭、または欧米で好まれているような木を使って植栽することを、洋風という言葉の、大きなイメージの捉え方にしておくほうがよいのでしょうね。
実際、本を片手に来られて、その本に’洋風ガーデンに合う樹木’なんてガイドが載っていても、その大半は以前から和庭で使われ来た樹木ですから。
それは植え込みに行ってもそうです。
「洋風の庭にしたいんだ」というお客様のご相談を受けたとき、家を拝見して、簡単な打ち合わせをし、お任せでしたのでデザインを考え、数本の庭木をお持ちしました。
庭のメインはちょうどこちらに合う大きさの木だったせいもあり、ヤマボウシの株立ちにしました。
お客様にお見せすると、たいへん気に入っていただけました。
こういう木は、今風の作りの家には、良く合うものだと自分でも思いましたが、もちろんヤマボウシを選んだのは’あえて’その木を使いたかったからです。
なぜかといえば、ヤマボウシの株立ちは、昔から日本にある木であり、和庭でも同じ形の木が好まれて使われているからです。
和風とか洋風とか区別をつけることはかなり難しいことですね。
やはり、どこにでもお国柄があり、その都市にあった気候、風土があります。
ですから一番大切なのは、その土地に適応した樹木を選ぶことと、その中で自分のイメージに近い木を考え、選択していくことが大切です。
植木屋から見る洋風
もちろん我々専門家だって、昔のスタイルのままでは植木が売れないのはわかっておりますので、色々研究してきました。
一番簡単なことは、名前を洋名に変えること。
モクレンは’マグノリア’、ギボウシは’ホスタ’など。
また、今書いているように、漢字や平仮名を減らし、’カタカナ’表記にすること。
それだけのことのように思われたり、詐欺だと感じるかもしれませんが、お客様の受ける印象はまるで違うものになり、今までと同じ木なのに急に人気がでることもあるのです。
そして一番力を入れているのは、樹木そのものを人気種に替えていくことも当然ですが、それだけではなく、今までの仕立て方の木のスタイル、樹形を変えていくことです。
自分の洋風という言葉に受けるイメージは、フランス庭園などに見るような、幾何学的な均整のとれた美しさです。直線を基本とし、対称に植栽を配置、きれいに刈り込まれたコニファーなどのを植え込む。
木よりも草花で色を表現する、というイメージです。
ですので、今までは木の一本にも、幹を曲げて不均等な中での美しさを作ってきた松なども、幹をまっすぐにして、枝の配置も左右に同じような大きさに変える、マキは一つ一つ玉にせず、ろうそく型、円筒型に変えて、自己主張を控えめにする。
などの努力で、今の庭作りに対応するように考えています。皆様からもこんな木があればというご要望を受け付けておりますので、ご連絡ください。
外国人に教わる’洋風’
一昔前から、ヨーロッパでは日本古来の草花が人気を集めています。
彼らの良いところは、いいと思ったものは取り入れてみるところです。
ですから、和庭で使われてきたアオキや玉竜なども積極的にガーデニング素材で利用され、なぜか自然と庭にマッチしているのです。
どうも、あちらの方々は日本人ほどにスタイルに意識はないようです。
幸運にも、フランス人のお客様と知り合う機会を得ました。
大変庭がお好きな方で、奥様は日本人。本場イギリスで10年近くガーデニングをしていた実績もあります。
現在は野田市内に家を購入され、独自の庭つくりを研究されています。
お断りしますが、プロの園芸家ではありません。庭が趣味の方です。
盆栽もお好きで、イギリスでも栽培していたそうでし、ぜひ自宅の庭では、日本の材料を使ってガーデニングをしたいと目を輝かせていました。
余談ですが、イギリスではとても庭への関心が高いらしく、ガーデニングを扱う人気番組がいつくもあるほどで、皆さん夢中になっているそうです。
先日その方が、仕入れの手伝いに同行してくれました。
これもお断りしますが、日本語はぺらぺら。たまにわからない言葉は、こちらも知っている限りの英語に置き換えますが、日本語で十分会話ができます。
その方にずっと疑問に思っていた、この和風と洋風の定義についての疑問をぶつけてみました。
すると、
「イギリスでは、日本と違い木は自然に生えさせていくだけです。形を作ったり、植え合わせを考えたりなど、凝ったことはしません。」
とおっしゃいました。
どうも自分には言っていることがピンときません。コニファーなどを円錐形に作ったりするほうがよほど不自然に感じていますもの。
仕入先に着き、その方がもみの木を見た途端、
「これはダメ。このコニファーもだめ。これは洋風じゃないよ。」と言われました。
もみやコニファーが洋風ではなければ何が洋風なのでしょうか?ますますわかりません。
でも、よく話しているうちにようやくわかってきました。
イングリッシュガーデンにおいては、どんな木を植えたにしても、基本は形を作らず野放図に育てたものが’洋風’なのです。ですから、ボックスウッドをきれいに丸く刈り込ん置いてあれば、それはすでに洋風ではなく’和風’となります。
そういうものは、ありのままにボサボサに育ててこそ、庭に使えるのです。
それは庭木だけに留まりません。宿根系の草花だとて同じこと。
ブッシュになるものは、自然と2mになろうとも大きくさせておくことが、美しさなのだそうです。
「では、大きくなりすぎて邪魔になったらどうするのですか?」
「そのときは下から切り倒します。また根元から生えてきたり、イメージを変えたかったら違うものを植えるのです。」
ですから庭のイメージを作るのは、樹木ではなく、草花の植え合わせなのです。庭木は大きく自然に育てば何でもよいのです。
この方から見れば、不自然な形を作りたがる日本の庭のほうが、よっぽど自然ではなかったのです。
ああ、こんなに考え方に違いがあるのかと、そのとき目が覚める思いでした。
同時に、和風とか洋風とか定義しようとしていた自分がバカらしくなりました。
初めから答えが出ないことはわかっていました。所詮自分の考えは日本人の発想にすぎなかったのです。
この方が、ご自分のお庭で楽しそうにもみじを植えたり、竹を植えようと考えているのを聞いていると、自由な発想を自分自身が束縛していたのだなって反省しました。
日本人の庭つくり
日本人は、古来より屋敷にも自然の風景を再現しようとして、庭作りが行われました。
しかし日本人は、庭をただ座って眺めるもの、木をはやしておくことだけに満足しませんでした。
庭の中を歩き回ったり、時には船を浮かべたり。
その様式は、時の思想や宗教観も反映し、枯山水を考案したり、砂に模様を描いたり、富士山まで庭に模写しようとしました。
これほど一つの国で色々な方法を考えていたのは日本人だけではないでしょうか?
自分も勉強不足のせいで、他国を語ることはできませんが、少なくとも日本人の感性の豊かさだけは自慢して良いと思っています。
そんな変遷を経てきた国だからこそ、新しい視点で、時代にあった庭つくりをしていくべきでしょう。
今はそれを’洋風’と呼んでいます。
将来はそんな時代の様式に名前が付けられ、歴史の一つとなるのでしょうね。